家族の形態が多様化している中、法定相続を規定通り適用すると、実態と整合性のない遺産分配となってしまうことも考えられます。
そんな時、被相続人が遺言を残すことで実態に合った相続が行われることが期待できます。
そこで、改正相続法では、遺言書の作成や活用時の利便性を向上させることによって、遺言の利用促進を図っています。
これまの自筆証書遺言は、全て遺言者が手書きしなければなりませんでした。
そのため、相続財産の数や種類が多い場合には遺言者の負担が大きく、誤字脱字が生じると、原則全て書き直さなければならず、相当な手間と労力がかかっていました。
そこで、改正相続法では、相続財産の目録部分を添付し、自書によらない方式によることが認められました(新968条2項前段)。
目録として添付できるものとしては、パソコンで作成したリストや、他人による代筆、預金通帳等のコピーや不動産全部事項証明書等が考えられます。
★財産目録をワープロで作成する場合の留意点
・自書によらない目録部分にも署名及び押印がページ毎に必要です。また両面に記載がある場合は両面それぞれに必要(新968条2項後段)となります。
・押印は、遺言全体で同一の印鑑を用いることは要求されてません(新968条1項・2項参照)し、公正証書遺言のようにページ間に契印を押す必要もありません。しかし、信憑性を高めるためには、押印に実印を使用することが望ましいでしょう。
・遺言本文と目録を1枚の用紙に記載するのは適切ではありませんので、別用紙にそれぞれ記載するようにしましょう。
・登記事項証明書等には、日付が記載されていますが、遺言の記載日時との整合性に留意する必要があります。例えば証明書の日付の方が新しいと遺言の信憑性が疑われ、検認などで無効となる可能性があります。十分に注意しましょう。
自筆証書遺言は、公正証書遺言と比較すると、費用がかからず、証人も不要で、遺言書の存在を人に知られず、自由に遺言書の書き換えができるというメリットがあります。
その一方で、遺言書を紛失したり、相続人等による隠匿・変造のおそれもあり、遺言書の存在が把握されずに遺産分割協議が進行してしまったり、その後に遺言書が発見されて協議をやり直したり、遺言書の要件が整っていなかったために、検認で無効となる等のデメリットもありました。
そこで、改正相続法により、自筆遺言書の利便性を向上させ、遺言の利用促進を図るため、自筆証書遺言を法務局において保管する制度(以下「遺言書保管制度」という)を始めました。
※法務省HPに制度の詳細が示されています
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★遺言書保管制度のメリット
・遺言書保管所に保管されている関係遺言書は検認手続が不要です(法11条)
・遺言の執行は遺言書原本ではなく、遺言書情報証明書(複数部発行可能と想定)でも行うことができるので、相続登記や預金の解約手続きを早期に行うことが期待できます
・申請の際に要件確認がされており、方式違反等による無効という事態を防止しやすくなります。
★遺言書保管制度の留意点
・申請者
遺言者は、法務局(遺言書保管所)に自ら出向き、保管の申請をしなければなりません(法4条6項)。
※代理人や使者による申請は認められず、病気等のため遺言者自らが遺言書保管所へ出頭できない場合、遺言書保管制度は利用できません。
・申請窓口
申請は、遺言者の住所地若しくは本籍地等の遺言書保管所に行います(法4条3項)。
※既に遺言書を保管している場合には、同じ遺言書保管所に申請しなければなりません(法4条3項括弧書き)。
・遺言書の様式
遺言書は、法務省令の規定に沿った様式で作成します(法4条2項)。
・申請書類
遺言書の保管を申請する際には、遺言書に添えて申請書を提出します。
・形式的な要件の確認
申請時に遺言書保管所で、形式的な要件の確認がありますので、遺言書は無封で持ち込みます。
・遺言書が保管されていることの通知(関係遺言書保管通知)
遺言書保管所は、相続人等に対し、この遺言書情報証明書を交付したり、遺言書の閲覧をさせたときには、速やかに、他の相続人等当該遺言書の関係者に対し、遺言書を保管している旨を通知する(法9条5項本文)こととなっており、その他の全ての関係相続人等に遺言書が保管されていることが伝わる仕組みとなっています。
・遺言者が死亡したことの通知(死亡時の通知)
遺言書保管所は、遺言者の死亡の事実を確認した場合には、遺言書の保管の申請時に通知を希望する遺言者が指定した者に対して、遺言書が保管されている旨を通知することとなりました。
※令和3年度以降、運用開始予定。
通知対象者は,遺言者の推定相続人並びに遺言書に記載された受遺者等及び遺言執行者等から1名を指定することとなるようです。
なお、令和2年7月時点では、遺言者の死亡に伴い自動的に相続人等へ遺言書の所在を通知される仕組みは整っていませんので、遺言者はいざというときのために、遺言書が保管されている事実を誰かに知らせておく必要があります。
詳細は法務省のHPをご参照ください
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★保管された遺言書の取扱
(遺言者生存中)
・閲覧の請求
遺言者は、保管を依頼した遺言書保管所に出向いて、遺言書の閲覧を請求できます(法6条2項)。
なお、遺言者の存命中は、遺言者のプライバシーを保護する必要性があるため、遺言者以外の推定相続人等の閲覧や照会への回答は認められていません(法9条1項)。
・遺言書の撤回
遺言者自ら遺言書保管所へ出向いて撤回の申し出を行ってください(法8条1項)。
※病気等遺言者自らが遺言書保管所へ出向けない場合は、保管申請の撤回や返還請求ができませんので、異なる遺言内容とするためには、内容の異なる遺言書を新たに作成する必要があります(民法1022、1023条)。
★保管された遺言書の取扱
(遺言者死亡後)
・閲覧の請求
誰でも「関係遺言書」(請求者が相続人・受遺者等となっている遺言書)が、遺言書保管所に保管されているか否かの有無を確認することができます(法10条1項・2項、9条2項)。
・「遺言書保管事実証明書」の交付請求
関係遺言書が保管されている場合、相続人や受遺者等の関係者は、遺言書保管ファイル(法7条2項)に記録されている保管場所や保管番号・作成年月日が記載された「遺言書保管事実証明書」の交付を請求できます。
・「遺言書情報証明書」の交付請求
相続人や受遺者等の関係者は、遺言書保管所に対し、遺言書保管ファイル(法7条2項)に記録されている事項(遺言書の写しを含む)が記載されている「遺言書情報証明書」の交付を請求できます(法9条1項)。
交付請求はどの遺言書保管所でも可能です(法9条2項)。
・他の相続人への通知
遺言書保管所は、相続人や受遺者等の関係者に対し、この遺言書情報証明書を交付したり、遺言書の閲覧をさせたときには、速やかに、他の相続人等当該遺言書の関係者に対し、遺言書を保管している旨を通知する(法9条5項本文)こととなっています。
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改正のポイントその3
相続人等関係者間の公平性の担保